ボツリヌス療法– けいしゅく(ボツリヌス外来) –

痙縮について(ボツリヌス外来)

脳卒中の後遺症としてみられる運動障害の一つに痙縮(けいしゅく)という症状があります。
痙縮とは意志とは関係なく筋肉の緊張が高まり、手や足が勝手に突っ張ったり曲がってしまう状態のことです。
痙縮では、手の指が握ったままで開きづらい(清潔にしにくい)、肘が曲がり伸びづらい(着替えなどしにくい)、足の先が足の裏側の方へ曲がってしまう(歩くと痛い、装具がつけにくい)などの症状がみられます。痙縮による姿勢異常が長く続くと、筋肉が固まって関節の運動が制限されてしまう拘縮(こうしゅく)という状態に陥り、ご本人やご家族の日常生活に大きな支障をきたしてしまいます。また、痙縮そのものがリハビリテーションの障害となることもあるので、痙縮を治療することによりリハビリテーション(ストレッチ含む)がしやすくなります。

痙縮の治療について

痙縮の治療には、内服薬、ボツリヌス療法、神経ブロック療法、外科的療法、バクロフェン髄注療法などがあります。実際,痙縮の程度や範囲、患者さんの希望などを考慮し、リハビリテーションとこれらの治療法を組み合わせて痙縮の治療を行います。

ボツリヌス療法について

ボツリヌス療法とは,ボツリヌス菌が作り出すボツリヌストキシンと呼ばれるたんぱく質を有効成分とする薬を筋肉内に注射し、痙縮の改善を図る治療法です。ボツリヌストキシンを筋肉内へ注射すると、筋肉の緊張をやわらげ、痙縮を改善することができます。ボツリヌス菌そのものを注射するわけではないので、ボツリヌス菌に感染する危険性はありません。

ボツリヌス療法の効果について

ボツリヌス療法によって、次のような効果が期待できます。

  • 手足の筋肉がやわらかくなり、曲げ伸ばしがしやすくなることで、日常生活動作の制限が軽減されます。(手を洗いやすくなる、装具がつけやすくなる、くつが履きやすくなる、など)
  • リハビリテーション(ストレッチ含む)を行いやすくなります。
  • 関節が固まって動きにくくなったり、変形するのを防ぎます(拘縮予防)。
  • 痛みをやわらげる効果が期待できます。
  • 介助の負担を軽減することが期待できます。(着替えの補助、衛生ケアがしやすいなど)
ボツリヌス療法の進め方

まずは診察をし、治療方針と目標を設定します。ボツリヌス療法の効果は、注射後2-3日目から徐々にあらわれ、通常3-4ヶ月間持続します。その後、数週間で効果は徐々に消えてしまうので、治療を続ける場合には、年に数回、注射を受けることになります。ただし、治療効果や持続期間には個人差があるので、医師と相談をしながら治療計画を立てていきます。

ボツリヌス療法の具体的な治療方法

細い針で数か所、緊張をゆるめたい筋肉に注射をします。治療時間は約20分から30分くらいです。

ボツリヌス療法の副作用について

ボツリヌス療法を受けた後に、副作用として以下のような症状があらわれることがまれにあります。これらの症状は多くが一時的なものですが、症状があらわれた場合には、医師に相談してください。

  • 注射部位が腫れる、赤くなる、痛みを感じる。
  • 体がだるく感じる、力が入りにくい。
ボツリヌス療法の治療費について

当院で行う上肢・下肢痙縮の治療は保険が適応されます。通常1割〜3割負担で治療が受けられます。注射を行う部位や、範囲によって費用が異なります。また公的支援制度の助成により、ご自身の負担が軽減出来ることもあります。

多汗症(原発性腋窩多汗症)

多汗症とは、体温調節に必要な量を超える量の汗が出て、日常生活に支障をきたす状態をいいます。

 特別な原因がなく、日常生活に支障をきたすほどのワキの多汗が生じる病気を「原発性腋窩多汗症」といいます。原発性腋窩多汗症はニオイや衣類の黄ばみの原因にもなります。
 
 特別な原因がなく、日常生活に支障をきたすほどのワキの多汗が生じる病気を「原発性腋窩多汗症」といいます。原発性腋窩多汗症はニオイや衣類の黄ばみの原因にもなります。
 
ワキの多汗は、社会活動の盛んな若年・中年世代に多くみられます。
 
気候や運動による温熱刺激と、緊張やストレスなどによる精神的な刺激の両方が原因となって生じます。
 
これまで体質の問題とされることも多かった多汗症ですが、塗り薬など身近な治療法が登場し症状を軽くすることが可能となりました。

多汗症の症状と原因

多汗症は、ワキや額、手のひらや足の裏で発症しやすく原因の分からない「原発性」のもの、内科的疾患・外傷・腫瘍などによる「続発性」ものと、その原因はさまざまです。

 
汗は皮膚にある汗腺で作られます。
汗腺には「アポクリン腺」と「エクリン腺」と呼ばれる2種類が存在し、多汗症の原因となるのは「エクリン腺」から分泌される汗です。
 
「エクリン腺」から分泌された汗が皮膚表面に付着している皮脂や汚れと混ざると皮膚常在菌によって分解されニオイを発生します。
また、衣類の汗ジミ、黄ばみなどの原因となり、日常生活に影響がでることがあります。

多汗症の種類

原発性多汗症:

明らかな原因が存在しない。
腋、頭、額、手のひら、足の裏など、汗腺が密集している特定の部位でのみ、汗を多くかく症状です。遺伝的要因、ストレス、ホルモンバランスの崩れなどで自律神経が乱れることで汗の分泌が活発になると言われています。

続発性多汗症:

内科的疾患・外傷・腫瘍などが原因で発症する。

原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)

腋窩(ワキの下)から多量の汗をかく疾患です。
日本人での原発性腋窩多汗症の有病率は約5.8%(2009年調査より)と推定されています。
温熱刺激+精神刺激により決して珍しくありません。
症状を放置せずに適切な治療を行い改善しトラブルを解消しましょう。

多汗症の診断

原発性腋窩多汗症は日本皮膚科学会の『原発性局所多汗症診療ガイドライン2023改訂版』の診断基準によって診断されます。

*HDDS 3および4は重症多汗症と判定されます。

*原発性局所多汗症診療ガイドライン策定委員会. 日皮会誌. 2023; 133: 157-188 ©公益社団法人日本皮膚科学会

多汗症の治療

多汗症の中で原発性腋窩多汗症の治療に対し、当院では診療アルゴリズムに則って
①抗コリン外用薬
②ボトックス治療

を行っています。

①抗コリン外用薬 

エクロックゲル® 5%【保険適用】

単剤使用で約80%の方の「発汗が抑えられた」
約60%が「日常生活に支障が無くなる程度まで改善した」という結果がでています。
ワキに塗るだけで、重大な副作用の報告もなく安心して使えます。

ラピフォート®️ワイプ【保険適用】

ワイプ型の塗り薬で、1日1回使い切りタイプです。
簡単かつ衛生的です。

②ボトックス治療®️【保険適用】

ボトックス治療は当院でも行っています。
上下肢痙縮、痙性斜頸の治療薬として使用されています。

ボツリヌス菌が作る天然のタンパク質から精製された薬剤をワキの下に直接注射する治療法です。
この薬が交感神経から汗腺への刺激の伝達をブロックし発汗をおさえます。
 
汗を抑える効果は治療後2~3日であらわれ、4~9か月程度持続します。
 
発汗量が多くなるが夏前に治療することで、夏の時期の発汗をおさえることが出来、快適に生活することが出来ます。
 
*費用は保険適応3割負担で約20000円(別途診察料が必要となります。)
*ボツリヌス菌が作るたんぱく質から精製された薬であり、ボツリヌス菌を注射するわけではありませんので、感染の心配はありません。
*効果の程度や持続期間は個人差があります。完治を目指す治療ではありませんので症状が再び現れた時にはあらためて治療を行います。